貴族階級が国を支配した平安時代に対し、鎌倉時代は自ら耕した農地の所有権を武士が主張し、国を動かすようになり、武家の隆盛と軌を一にして禅宗が隆盛する。こうした社会の変動は人々の生活様式や宗教、芸術にも深い影響を及ぼした。
武家政権の樹立とともに鎌倉が政治の中心となるが、庭園の文化の中心は依然として京都にあった。建築様式では、平安時代の寝殿造りから今日の和風住宅の基礎となる書院造りへと変わっていくが、寝殿造り庭園の様式は衰退に向けた変容を見せつつも存続し、郊外の景勝地に別荘を営み庭園を築くという文化もまた有力貴族を中心に続いていく。
寝殿造りがいわばワンルーム様式であるのに対し、書院造りは内部をいくつかの独立した部屋に分け、各部屋に畳を敷き、床の間や付書院などの付属施設を設えた。
それに伴い庭園の様式は、池泉舟遊式の要素を残しつつも池の周りを回遊する池泉回遊式へと変わっていった。回遊式庭園は池の周囲に苑路を設け、さまざまな景の転換を工夫する。そのため池泉の形は出島を多くするなどしてかなり複雑になった。
社会の中心となった武士階級は、中国から新たにもたらされた禅の教えに帰依するようになり、禅的修行のひとつとして、庭園内を回遊しながら思索することを好んだ。また、書院の発展は、部屋から見る座視鑑賞式の庭を生み出していった。
この時代の庭園をリードしたのは禅僧であった。その一人に、鎌倉末から室町初期の南北朝時代に当代随一の禅僧にして作庭にも傑出した臨済宗の禅僧・無窓国師がいる。彼は各地を遍歴しながら公案(禅問答の問題)を主題にした庭を造った。代表的な庭園として、岐阜県多治見市の永保寺や京都の西芳寺、天龍寺などがある。
疎石による眺望を活かした構成や石組などの優れた造形は、以降の庭園の一つの規範となり、庭園の構成やデザインにも大きな影響を及ぼす。
現在、苔寺の名で親しまれている西芳寺は、奈良時代に行基が開いたという伝承をもつ古刹で、寺域は洪隠山(こういんざん)という山の麓にある。飛鳥時代から太子作の阿弥陀像が祀られたという伝承があり、当初の名称であった「西方寺」が示すように阿弥陀如来を本尊とする西方浄土の寺であったが、無窓が入寺した当時は浄土宗のふたつの寺に分かれていた。無窓はそれをひとつに統合し、浄土宗から禅宗に改め、建築や庭園も造り直した。
往時の様子が当時の貴族や僧侶等が残した見聞記などの文献資料から窺える。それらによると、無窓は下の平坦地に池泉庭を、山の傾斜地に枯山水庭を造り、上下二段の庭園とした。
西芳寺は応仁の乱で焼失し、江戸時代には2度に渡る洪水により荒廃した歴史がある。上段の枯山水の庭が荒廃して苔で覆われるようになるのはその頃からのようで、今ではこの庭園を埋め尽くす苔の種類は100種を超えるといわれている。
苔むした庭の見え方は一様ではない。光の状態によって、ある場所では新緑の絨毯のようでもあり、雪の結晶のようなパウダー状にも、あるいは、配された石を包み込む粘性のある生き物のようにも見える。
無窓の作庭当時、池の中島の表面は白砂で周囲に護岸石組が組まれていたが、今は苔に覆われ一部の石組しか見られない。現存する建物も、江戸時代初期に千利休の女婿・少庵(しょうあん)が再建したといわれている湘南亭を除いて明治時代以降のものである。湘南亭と潭北亭の名称は無窓の命名によるが、建物の規模も位置も無窓の時代とは異なる。池泉庭苔寺とよばれる庭園に関していえば、厳密には夢窓疎石の意図した庭そのものではなく、当初の建物や植栽とあいまった華麗な庭園の姿は遥か過去のものとなってしまった。
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