「日本庭園」と聞いて想い起す庭園は、人によって様々だ。池の庭もあれば、枯山水もあり、あるいは露地ふうのものもある。見かけの上では相当異なるものであるが、いずれも日本庭園である。それは、日本庭園という概念が特定の様式を指すのではなく、日本のそれぞれの時代の社会や文化のなかで産み出され、育まれてきた各種の様式の庭園を含むものだからである。
日本庭園の歴史は非常に古く、文献上で残っているものだけでも、ゆうに千有余年の歴史を持っている。しかし、その源流については未だ正確なことが解っていない。磐座(いわくら)や磐境(いわさか)のように石を様々に組むことは行われていたようである。石を神格化し、石そのものを神として崇拝する場合に磐座があり、山肌などに露出している自然の岩などがその対象である。また石を神格化するとともに、その石を円形や楕円形に配置して、その中を神聖な地として神をまつるものを磐境と称している。また、池の中に中島を作ってそこに神を奉ったりしたのもこのころの特徴である。これは池を遥かな海に例えるところからきていると考えられている。
かつては、飛鳥・奈良時代には日本庭園は存在しないといわれていたが、明日香村で飛鳥京跡宴池遺構などが発掘されたことなどで、その通説は否定された。当時の庭園は中国や朝鮮半島の影響を強く受けていることが判明している。『日本書紀』には、飛鳥時代、路子工(みちこのたくみ)という百済からの渡来人が、宮廷の南庭に「須弥山」を築いたという記録がある。「須弥山」というのは、古代インド仏教の宇宙観において世界の中央にそびえる山のことで、別名妙高山ともいう。その渡来の庭園文化に日本独自の池や古墳づくりの技術が合わさり、古代の庭園造りが深まったとされている。
奈良市内には復元された奈良時代の二つの庭園がある。そのひとつ東院庭園は、平城宮の東院、楊梅宮(ようばいきゅう)という地域にあり、1967(昭和42)年から発掘調査が行われ、ほぼ1300年前の庭園が復元され一般公開されている。東西80メートル、南北100メートルの敷地で、複雑な形の池泉に中島が一島配されている。
東院というのは平城京の東に張り出した部分で、迎賓のための場所だったようだ。池泉は曲線が主体で、庭園のほぼ中央と北東隅に建物を配し、それぞれに平橋と反橋(そりばし)が架けられている。庭の大半を占める池泉は深さが約20cmで、入江や出島を複雑に造り、曲線主体の形となっている。汀はほとんどが洲浜の造景で、それが水面を美しく見せている。
池泉の北端築山には蓬莱石組みがある。神仙蓬莱思想(方丈・蓬萊など超自然的な楽園と、そこに住む神通力をもった神仙の実在を信じる中国古代の民間思想)は早くから日本に伝わり、すでに奈良時代から庭園に取り入れられていたようだ。池泉の水際は洲浜になっており、この洲浜が後の日本庭園を特徴づける重要な造景となる。
もうひとつは、1984(昭和59)年に復元整備された平城京左京三条二坊宮跡庭園である。1975(昭和50)年、平城宮跡の西南、平城京左京三条二坊6坪の地に奈良郵便局の用地が求められたため奈良国立文化財研究所が発掘調査を実施したことに端を発する。今では奈良時代庭園のほぼオリジナルな姿を伝えるものとして、平城宮東院庭園(特別史跡「平城宮跡」に含まれる)ともども国の特別史跡と特別名勝に指定されている。
この庭園は玉石が敷き詰められたS字状の池(延長55メートル、北から南に蛇行しているが、平均幅は15メートル)が中心で、建物は池とともに春日山などが望めるように東向きに配置されている。中心に池を配置していることから、この敷地全体が宴遊施設であったと推定される。
宮跡という名前がつくが、この地は正確には宮外である。しかしながら、平城宮の近く(約300m)であり、平城宮の離宮または皇族等の邸宅(宮)であった可能性もあることから「宮跡庭園」(みやあとていえん)と名付けられた。
公開にあたっては発掘遺構である園池を露出展示するとともに奈良時代の建物が復元されているが、公開を始めてから約30年が経過し、園池の一部に経年による劣化が生じてきたため、現在は園池全体に覆屋を架け、修復作業が行われている。
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