今までのミュージアム関連の鑑賞歴、接触人脈そして現在のミュージアム支援機会を生かして、様々な視点によるミュージアムの魅力等をご紹介しながら、アクティブシニアの皆様のゆとり生活設計支援ができれば幸いです。
木村 文男
ミュージアムぐるっとパス
関西実行委員会 事務局次長
兼 株式会社廣済堂 常勤顧問
E-mail : m-grupass-kimura@kosaido.co.jp
環境に調和した写真美術館 古都奈良の静かな街並みが続く。久しぶりに晴れわたった陽光のもと、柔らかなそよ風の中に、すぐそこにある春の訪れを聞いた。市内循環バスを降り、なだらかな坂を上りはじめた。現れる景色が志賀直哉や会津八一の描いた、あの頃のイメージをとり戻してくれる。市街地からほんのわずか外れた場所だが、崩れかけた土塀が見える。薄汚れた白の築地が目に入る。遥かむこうに春日山原始林がそびえる。街角の石碑には新薬師寺・白毫寺・山の辺の道の文字が刻まれている。ここ高畑町界隈では整理された現代の中に懐かしいあの頃の奈良が見え隠れしている。
入口の表示板 いま、「入江泰吉記念 奈良市写真美術館」では『没後20年 入江泰吉の東大寺展』が開催されている(〜2012.4.15)。よく目にする「東大寺」の仏像や建造物や辺りの風景が個性あふれる被写体となって、作家の感性と共鳴しながら作品の魅力を存分に披露してくれる。展示された画面の中には、溢れんばかりの言葉や歴史の足跡や作家の息づかいなどが無言のまま散りばめられていることを知る。入江氏の作品のなかでも「東大寺」に関わる作品が群を抜いて多いと言う。「東大寺」に触れ、被写体に激しく向き合い続けた作家の気迫が作品の魅力に拍車をかけて迫る。そこにはまさに入江氏が追い求めた心の原風景の発露が保存され、展示され、観る者に歴史のうねりと自然との調和を訴えかけてくる。
この美術館は「新薬師寺」の隣、「白毫寺」の近くにある。建物は風致環境への配慮のなかで展示室は埋め込まれ、外壁はガラスで覆われ、屋根瓦が美しく映える。地階には水田をイメージした庭があり、自然光を採り入れた明るいスペースは爽やかである。地上に戻れば、ゆったりとしたカフェからは、庭園を眺めながらのんびりと感動の余韻を楽しむことが出来る。写真愛好者が増えている昨今、市民文化の醸成や文化創造に寄与する魅力的なミュージアムとして定着しつつある。また、同じように写真美術館としては大規模施設の「東京都写真美術館」、山形県にある「土門拳記念館」、鳥取県にある「植田正治写真美術館」、そして独自の対応を続ける「清里フォトアートミュージアム」などが、それぞれ全国的なレベルでの情報発信活動を続けている。
正面入り口付近 出口近くの1階エントランス脇から明るい屋外のステージに立った。陽光に輝く池を配した庭には「水煙」と言う名の造形作品が空に向ってそびえている。すぐ隣の「新薬師寺」では、暗闇の庭を真っ赤な炎で焦がしながら時空を越えて安寧の日々を祈り続けてきた「おたいまつ」の感動の瞬間を4月8日に控えている。近くの高円山のふもとに建つ「白毫寺」でも四月の法要が営まれる頃には、樹齢400年ほどの五色椿などが枝いっぱいに花をつけることになる。そのあと、この高畑町界隈にも本当の春が一気にやって来るという。
※「ミュージアムぐるっとパス」を利用すると、奈良写真美術館の入場料が半額になります。