今までのミュージアム関連の鑑賞歴、接触人脈そして現在のミュージアム支援機会を生かして、様々な視点によるミュージアムの魅力等をご紹介しながら、アクティブシニアの皆様のゆとり生活設計支援ができれば幸いです。
木村 文男
ミュージアムぐるっとパス
関西実行委員会 事務局次長
兼 株式会社廣済堂 常勤顧問
E-mail : m-grupass-kimura@kosaido.co.jp
美術館付近にある広報板
大阪駅からJR福知山線の快速電車で2駅目にJR「伊丹駅」がある。大阪駅から13分の至近距離である。駅の前にはNHK大河ドラマ“軍師・官兵衛”にも登場した、戦国武将荒木村重の居城有岡城跡があり、紅葉の中で当時の面影をわずかに伝えている(ちなみに、江戸時代初期を代表する絵師「岩佐又兵衛」は荒木村重の子として生まれている)。
伊丹駅から美術館のあるエリアへの道は綺麗に整備された心地のいい歩道である。江戸時代には「酒の町」として繁栄し、文人達の訪れる文化の香り高い町として喧伝されてきた。その中心部に幾つかの文化施設がそれぞれの歴史を感じさせながら保存され、開設されて「みやのまえ文化の郷」として多くの人達を集めている。『伊丹市立美術館』もその整理された一つの施設として1987年に開館している。
美術館1階の庭園の見えるロビー
中庭庭園
この美術館には19世紀フランス美術作家「オノレ・ドーミエ」の2,000点を越える風刺版画や彫刻・油絵など、世界有数の規模の作品が所有保存されている。その「風刺とユーモア」と言うコンセプトをもとに、18世紀から現在へと至る国内外の近代風刺画なども多数収集されている。また季節により館所有の色鮮やかなデュフイの魅力的な作品“海の女神”“サン=タドレスの大きな浴女”や欧米、日本の近・現代作家の絵画や彫刻作品なども鑑賞することが出来る。
今回、この『伊丹市立美術館』で11月8日から特別展“魂の画家「ジョルジュ・ルオー展」”が始まった(〜2014.12.23)。この展覧会は東京にあるパナソニック汐留ミュージアム所有のルオーの作品群を中心に構成展示されたもので、初期から晩年までの油彩画約50点に加え、版画集“ミセレーレ”、“サーカス”、“流れる星のサーカス”、“受難”、“悪の華”等の版画連作50余点が解りやすく配置されている。しかも併せて、館所蔵の「オノレ・ドーミエ」作品の比較展示やルオー版画集“ユビュおやじの再生”の20余点や大判の多色刷り版画数点などにより、館独自の工夫を凝らした展示構成になって一層魅力的で充実した展覧会に仕立て上げられている。
かつて、私もルオー作品のある岡山・大原美術館や山梨・清春白樺美術館で空白の心に衝撃を受けながら鑑賞の時を持ったことがある。またルオー没後50年(2008年)当時に東京・出光美術館で「大回顧展」に巡り合い、大阪・ギャルリーためながでは感激の作品群やルオー財団理事長に出会った。そして、何度も訪ねた東京・汐留ミュージアムや機会があれば通い続ける東京駅にほど近いブリヂストン美術館の“ピエロ”や“郊外のキリスト”等には、その度に元気や勇気や静かな内省の時をいただいてきた。黒くて太い輪郭線を多用した画風、厚い信仰心の下で表現されたキリストや聖書の逸話、そして目を閉じた道化師達に映る「闇」。しかし、私にしてみればどれもこれも重厚な色彩が「光と生」のイメージをもたらし、敬虔な気持ちに立ちかえらせてくれる。
文化の匂い漂う街並み
この『伊丹市立美術館』を是非訪ねていただきたい。特別展“魂の画家「ジョルジュ・ルオー展」を一度目にしていただきたい。そして、「みやのまえ文化の郷」にある美術館以外の「柿衞文庫」「市立工芸センター」「旧岡田家住宅」「旧石橋家住宅」等の施設や手入れの行き届いた庭園を眺めていただきたい。そこには歴史に裏打ちされながら生活感の息づいた文化や文化継承の重要さを認識しながら日々心をこめて積み重ねている職員の努力が垣間見える。そして、地域に深く根ざした文化に育まれながら、心豊かな生活を送る市民の息吹をいっぱい噛みしめながら身近に感じたこの「みやのまえ文化の郷」をあとにした。
駅への道すがら、見つけた“奥出雲そば処「一福」”でゆったりと遅い昼食をとった。絶妙にバランスの取れた“だし”と打ちたてのコシの効いた美味しい“ざるそば”を啜りながら、喉に沁みてゆく一杯のビールが適度な疲労を充実感にかえてくれる。外は晩秋だというのに、まばゆい陽光に溢れている。その光の中でハナミズキの葉が真っ赤に燃えながら、掃き清められた舗道に落ちてゆく。