今までのミュージアム関連の鑑賞歴、接触人脈そして現在のミュージアム支援機会を生かして、様々な視点によるミュージアムの魅力等をご紹介しながら、アクティブシニアの皆様のゆとり生活設計支援ができれば幸いです。
木村 文男
ミュージアムぐるっとパス
関西実行委員会 事務局次長
兼 株式会社廣済堂 常勤顧問
E-mail : m-grupass-kimura@kosaido.co.jp
去年(こぞ)の秋、真っ赤に燃える見事な紅葉のなかにいた。「今日は有難うございました。本当に来てよかった。また、いつか是非」と言って目を細めながら何人もの方々に握手をいただいた。それは体の弱い皆さんを誘導しながら、1台のバスを仕立てて
素敵なトンネルから望む満開の枝垂桜
「錦秋の信楽に、華麗な美術館を訪ねて」という勝手な日帰り旅行を計画・実施した時のことである。
3月12日から「長沢芦雪-奇は新なり-展」が始まった(~2011.6.5)。その滋賀県の山中にたたずむ「MIHO MUSEUM」を訪れたのは17回目。今回も話題に事欠かない「江戸時代の鬼才・長沢芦雪」の展覧会、しかも100点を越える作品のうち半数が未発表。「寒山拾得図」がいい、「白象黒牛図屏風」がすごい。円山応挙の門下でありながら、学んだ技法を自在に駆使、奇抜でウィットに富んだ世界を展開。大胆な表現・光や視覚の活用・鋭い観察力と意を得た遊び感覚。私が得たのは快い刺激であった。その芦雪、残念ながら46歳で亡くなっている。この展覧会の底流にあるのは辻館長の豊富な人脈と江戸奇想の画家達への深い洞察と愛着心による、来館者への無言のサービスにあると思った。
アルシノエ世像 その素晴らしさは、展覧会の展示内容だけではない。正面玄関から美術館へ5分程のカートで移動する導線からの眺め、走り抜けた美しいトンネルの前に広がる優麗な吊り橋からの遠望、目の前に現われたあの美術館等で世界的著名な建築家の中国系米国人I・M・ペイ氏設計による展示棟の建物、そして豊富な常設展示の数々。私は行く度に逢える「アルシノエⅡ世像」が愛しい。館内2箇所にゆったりと広がる独創性あふれるギフトショップも、そして自然農法によって創り上げられた「真心手作りスイーツ」のなんとも美味しいこと・・・。とにかく素晴らしいのである。何もかもが「うれしい」のである。そして何よりも、そこここに「おもてなしの心」が心地よく溢れている。それも美術館創設にあたって掲げられた「桃源郷意識」や「美への畏敬、芸術世界への想い、文化創造への意思」などがいっぱいに詰め込まれているからなのかもしれない。
今年の春も4月の10日を過ぎる頃、大切に育てられた枝垂れ桜が一斉に花開き、美術館への並木道がそれは綺麗な桜色に染まる。歩くトンネルに響く靴音が心地よく、谷をわたる風に心なごみ、ミュージアム観覧への期待は大きく膨らむ。もし、静かな時をじっくりと味わいたいのなら、5月の黄金週間の後にゆっくりと一人で訪れるといい。その頃、四方の山々は新緑萌えいづる只中にあり、ホトトギス鳴く深山幽谷へと化してゆく。そして大きな自然が唯一の友となり、時々あなたに優しく声をかけてくる。
たっぷりと時間をかけた「MIHO MUSEUM」を後にした時、おそらくあなたは入場料で「絵画鑑賞の時間」を買ったのではなく、「心の豊かさを実感できる空間」を手に入れたのだと、やがて気がつくことになる。そして「なるほど!」とうなずくことにもなる。