今までのミュージアム関連の鑑賞歴、接触人脈そして現在のミュージアム支援機会を生かして、様々な視点によるミュージアムの魅力等をご紹介しながら、アクティブシニアの皆様のゆとり生活設計支援ができれば幸いです。
木村 文男
ミュージアムぐるっとパス
関西実行委員会 事務局次長
兼 株式会社廣済堂 常勤顧問
E-mail : m-grupass-kimura@kosaido.co.jp
美術館正面玄関 求めたわけでもなく、探したわけでもないのに昨年出会ったあの日の出来事を引きずりながら新しい年を迎えました。「新年あけまして、おめでとうございます」今年もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。毎年差し出す年賀状の最後には≪「様々な出会いと多くの感動」そんな財産を糧にまた今年も『心の旅』が始まる。相変わらず「夢を捨てたら心が涸れる」と自分自身に言い聞かせながら・・・。≫と言う文章を書き続けて、もう20年ほどにおよぶ。年頭には進みゆく心の老いを拒み、感性豊かな日々の生活を誓う。また幾多におよぶ環境の変化と共に歩み続けてきたその営みの中に沢山の感謝を拾う。
玄関横の展覧会表示 新年早々、1月2日から始まった「新春によせて 近代の油彩画・日本画」展(〜2012.2.12)を観覧に西宮市大谷記念美術館へむかった。閑静な住宅街の中にひっそりと佇む優雅な美術館の玄関先で、華やいだ和服の婦人達とすれ違った。年々正月気分の早めに消え失せてゆく中、ほのかに余韻を漂わせた明るく広いロビーがいい。展示もタイトルに合わせて華やかな日本画や近づく早春の足音を思わせる明るく希望に満ちた作品に溢れ、新春に相応しい配慮ある展示会になっている。そもそもこの美術館は実業家の大谷氏が土地と邸宅と収集されてこられた美術品を西宮市に寄付され、他界された翌1972年に開館されたものである。その雰囲気はこじんまりとしたもののコレクションは豊潤にしておおらかであり、明るい作風を好んだ故人の好みがそのまま反映されている。この日も橋本関雪・上村松園・島成園・菊池契月・伊東深水・北野恒富等の明るい華やいだ和装美人画がずらっと並び、その奥には福田平八郎や前田青邨の静物画、河合玉堂や横山大観などの早春風景が続いている。美術館所蔵の明治から昭和の日本作家のオンパレードに心がしなやかに躍った。
ゆったりとした正面ロビー この西宮市大谷記念美術館にはその他クールベ・ドラン・オットマン・ビュッフェ等の魅力的な洋画も折々に展示される。また、毎年開催される「イタリヤ・ボローニヤ国際絵本原画展」の根強い人気や荒木高子・藤本由起夫等の魅力的な現代作家やパラモデルによる「世界はプラモデル」展などユニークな展示の試みに、毎回驚きと共に目を凝らす機会があるが、現在の美術を取り巻く様々な変化を踏まえた多様化への試みが素晴らしい。
また、この美術館では茶室や池を眺めながら、ゆったりとした雰囲気のティールームでのひとときや綺麗に手入れされた庭園散策の楽しみなど、良質の憩いの場をたっぷりと提供し続ける市民目線での魅力づくりへの努力が続いている。新春の傾きかけた夕日のなか、誰もいない庭を歩くと、謎めいた「水琴窟」の澄んだ音色が響く。夕日に映える美術館が水面に浮かび、一筋の光が茶室の壁に影を落とす。足元ではすずなりの「万両の実」が夕日に照らされてまっ赤に燃えている。そんな静かな情景の中で安寧の日々をひたすら想い続けた。