第二十回　静かな、深い魅力に包まれて「堺市立文化館(アルフォンス･ミュシャ館)」

堺市立文化館正面玄関付近　 日常生活の中で織りなされる何の変哲もない時間や空間の中に繰り返される日々。そんな中にあって、駅からこんなにも身近な場所に感動のスペースがあるとは思いもよらなかった。ゆったりとした静かな真昼どき、ＪＲ堺市駅に降りた。駅続きの建物をわずか3分ほど歩くと目の前に現れるのが「堺市立文化館（与謝野晶子文芸館、アルフォンス・ミュシャ館）」である。別に何かを強調した訳でもなく、地味でごく普通の市立の文化施設である。この館に何度も訪れながら静かな感動を沢山いただき続けてきた「アルフォンス・ミュシャ」の展示スペースが広がる。

小冊子「アルフォンス・ミュシャの世界」 　ここでは、毎年３回ミュシャの企画展が様々な角度から捉えられながら紹介されている。そこには堺市が所蔵している500点に及ぶミュシャの作品群から展示されるポスター（リトグラフ）や油彩・素描・彫刻・宝飾品などを通して、ミュシャの活動初期から晩年に至る幅広い活動歴を知ることが出来る。今「アルフォンス・ミュシャ館」では、2012年度最後の企画展「ミュシャを愛した日本人」が開催されている（〜2013.3.10）。アール・ヌーボー（新しい芸術の意）を代表する「アルフォンス・ミュシャ」のポスターは刻々と日本に伝えられ、その衝撃は日本近代美術にも影響を与えている。当時日本で展示されたミュシャのポスターやその頃の作家にどのように受け止められていったのか、文芸作品等の展示とともに紹介されている。そして「土井コレクション」としてミュシャ作品を収集し、こよなく愛したコレクター土居君雄氏の紹介もなされている。
　それにしても、展覧会へのアピールは地味だが、この堺市所蔵のミュシャ作品の魅力はとどまる処を知らない。チェコで1860年に生まれミュンヘンで学び、パリに出て1894年34歳でサラ・ベルナールと出会い、サラ・ベルナールの威厳溢れる印象的なポスター創作で大評判になった作品「ジスモンダ」。1896年の作品であり日本の雑誌『明星』の挿絵に使われた「サラ・ベルナール」や「四季」、「椿姫」、「黄道12宮」。その後様々な作品にコマーシャル・アーテイストとしてのミュシャのイメージ戦略が装飾的に強調されたロングヘアと共に魅力的に表現されている。所蔵作品の中でも彼の繊細な感性から描かれた半身像「桜草」「羽根」の華麗・優美にして溢れる気品には目がくらむ。そしてチェコに戻ってからの絵画の大作「スラブ叙事詩」とは別に、装飾性は押えられたものの魅力的な51歳の作品「ヒヤシンス姫」等も実に愛らしい。

「MUSEUM　NEWS」NO.１ 　この展示館は集客数にあせる派手な美術館のような過剰な宣伝もない。しかし作品に対する修復への努力や来館者への様々なワークショップ等が展開され、静かではあるが序々に魅せられたファンを増やし続けている。そして地味ではあるが日々繰り返される地に足のついた着実な作業の連続や誠意ある来場者への応対が、市民やミュシャに魅せられた多くのファンに堺市立文化館の存在をいつまでも記憶させ続けることになり、季節ごとに展開される新たな企画にまた惹きつけられることになって行く。
　ちょうどこの春、チェコのチマル・コレクションから160点ほどの作品が京都にやって来る（美術館「えき」京都・2013.3.1〜3.31）。同じ頃、東京でも大規模な「ミュシャ展」が始まる（森アーツセンターギャラリー・2013.3.9〜5.19）。おそらく春の息吹が爽やかに感じられる頃、大阪（堺市）でも京都でも、そして東京でもあの華麗なミュシャの作品が多くの人々を虜にすることになるのだろう。

※４月新発売の「ミュージアムぐるっとパス・関西2013年版」を購入されると「堺市立文化館」へは無料で入場できます。詳しくは「ミュージアムぐるっとパス・関西2013」実行委員会事務局（TEL　06-6444-2364）へご確認ください。

過去に配布された企画展のチラシ（筆者観覧分のみ）