今までのミュージアム関連の鑑賞歴、接触人脈そして現在のミュージアム支援機会を生かして、様々な視点によるミュージアムの魅力等をご紹介しながら、アクティブシニアの皆様のゆとり生活設計支援ができれば幸いです。
木村 文男
ミュージアムぐるっとパス
関西実行委員会 事務局次長
兼 株式会社廣済堂 常勤顧問
E-mail : m-grupass-kimura@kosaido.co.jp
綺麗な阪神電車「芦屋駅」前広場
閑静な住宅街をのんびりと歩く。五月の風が何と心地のいいものなのか。昼下がりのまばゆい緑がこんなにも気持ちよく、目に沁みるものなのか。優しく花開いた淡いピンク色のハナミズキがゆれる。あゝこんな所にもごくありふれた幸があるのか。何か得をしたような妙な感謝の気持ちが、何処からともなく溢れてくる。目の前に拡がる緑の木々のなかに図書館がある。古風な「谷崎潤一郎記念館」の建物が見える。太陽に晒されて一層明るい「芦屋市立美術博物館」が目に飛び込んできた。広々とした開放的な庭と一隅に設えられた小粋なカフェ。誘われるままに向う通路には展覧会名をかざした標識が一つ。
いま、兵庫県芦屋にあるこの美術博物館では「世界を魅了した『青』浮世絵名品展」が開催されている(〜2013.5.6)。今回の展覧会は東京・礫川美術館所蔵の作品を中心に展開されていて、素晴らしい保存状態の作品と丁寧な解説文が添えられ、非常に解りやすく納得のいく充実した展覧会に仕立て上げられている。しかも、ただ浮世絵作品の年代に沿った展示ではなく、浮世絵に使用された「青色」の変遷を中心とする視点や科学的な分析による展示品への接近は「浮世絵」への興味を再発掘させてくれるようで、今までに幾度も観覧の機会をいただいた「浮世絵」が妙に新鮮に見えてくるから面白い。かつて神戸市立博物館で開催(2007.8)された特別展「西洋の青・プルシャンブルーをめぐって」を驚愕のなかで理解した<合成顔料のブルー(ベロ藍)>(1704年にベルリンで発見)の日本での受容過程の展示解説を思い出した。
美術博物館入口
過去に何度も目にした浮世絵。特に葛飾北斎の冨嶽三十六景シリーズの「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」における藍とベルリンブルーの使い分けの妙や摺刷技法の紹介など、浮世絵の持つ魅力が詳細に紹介されているこの展覧会に爽やかな空間を見出した思いがした。そして、この施設での従来の展示会に見た傾向や、保存する作品への所有意識を背負い続けてきたその殻から脱皮しようと模索する意欲的な側面を今回の展示からも嗅ぎ取った。10年程前に財政難から民間委託か休館・売却の検討で全国の美術館関係者・愛好家に衝撃を与えた。世界的に評価の高い前衛芸術作品の企画展示や地元の歴史の掘り起こし、市民の寄贈寄託作品の展示など地域密着型の活動展開を繰り広げているが、今回も新たな展示のすがたを垣間見たような気がした。
ちょうど昨年春に着任した事務局長(副館長)に面談の機会を得た。今所有の作品という財産を有意義に活用しながら、市民との新たな連携をめざし、積極的に活動し続けている活気あふれる明日への進展の模索など・・・。芸術文化を取り巻く地域の意識も時代も大きく変化している今、もがきながらも前進への舵取りを意識したアクテイブシニア世代の事務局長の姿に、非力ではあるが力いっぱいの声援を送りたい。
隣の谷崎潤一郎記念館入口
先週、『富士山』が信仰と芸術の融合した関連遺産群として、6月にはほぼ「世界文化遺産」に登録されることになったとの記事を手にした。おそらくそのジャッジの中には北斎や広重が多くの人々を魅了し続けてきた、「浮世絵」の魅力的な存在があったことは間違いない。そんな素晴らしい財産をいつでも観覧できる環境にあることの有り難さを、今こそ再認識すべきではないのだろうか。
先週大阪の堺にて「広重と北斎の東海道五十三次と浮世絵名品展」(〜2013.5.12)と称する中右コレクションを見る機会を持った。3月には東京・銀座で北斎の作品をリ・クリエイト技術により拡大した迫力のある「あっぱれ北斎展」(〜2013.5.31)を見学した。6月8日からは浮世絵版画の作品を沢山所有する「和泉市久保惣記念美術館」にて、おそらく北斎や広重の素晴らしい富士山が展示されることだと思う。改めて世界文化遺産に登録されるであろう「富士山」の魅力とその芸術的作品群の価値をじっくりと堪能してみてはいかがだろうか。
※「ミュージアムぐるっとパス関西2013年版」を持参(有効期間中のもの)すると、「和泉市久保惣記念美術館」での「北斎・広重の名所と風景」展(2013.6.8〜7.28)へは無料で入館見学をすることができます。詳しくは「ミュージアムぐるっとパス・関西2013」実行委員会のHPやチラシ等をご覧ください。