第二十三回　夏休み。若者の目に映る展示の世界「大阪歴史博物館」

「エヴァンゲリヲンと日本刀展」チラシ 　8月に入った。今年はすでに7月から猛暑の日々が続き、例年に比べ暑いどころか連日厳しい暑さをたっぷりと体感させられている。一言で言うと猛暑・酷暑どころか「残酷暑をお見舞い申し上げたくなる」日々である。こうなると夏のミュージアムの存在が妙に気になってくる。なかには心身共に快適な時間を過ごす手段として、涼しい美術館や博物館でゆったりと魅力的な展示品を心ゆくまで鑑賞しようと計画される方もおられる。子供達やお孫さんと一緒にミュージアムを訪ねる方々が増えるのもこの季節である。この時期、美術館や博物館の側でも子供を誘う親にPRする場合とせがんで親を連れ出す子供にPRする場合の二通りの広報活動が展示方法にも微妙に影響を与える場合がある。
　『エヴァンゲリヲンと日本刀展』なる特別展が大阪歴史博物館で開催されている(～2013.9.16)。「全国の刀匠たちが挑んだエヴァンゲリヲンの世界」と称して作品に登場する刀剣類や作品のインスピレーションをうけて日本の伝統技術を注ぎながら作り上げた新作の刀剣類が展示されている。つまり、「日本刀」と「エヴァンゲリヲン新劇場版」との奇跡的なコラボレーションだと言う。その「奇跡的なコラボレーション」の実態を理解したくて会場に足を運んだ。会場には若い人達がほとんどで中高齢者はいない。しかも三々五々のんびりとしたペースで展示ガラスに持たれながら覗きこんでいる。音声ガイドの利用者は皆無。展示入口にある解説チラシも減る気配がない。大阪歴史博物館と言う特質からか中国人・韓国人・アメリカ(英語圏)人等の会話があちこちから聞こえてくるが、作品に集中しながら鑑賞している風情ではなく、ただ見て回っているような雰囲気に終始している。短い展示室であっという間に観覧が終り出口を出ると、目の前には沢山のエヴァンゲリヲングッズが並べられたショップがあり、どうもその記念ショップに滞留している青少年が一番多いようだった。

大阪歴史博物館外観 　結局、エヴァンゲリヲンの世界と日本刀の制作・展示の世界がそれぞれ個別に表現されていて、興味を示す世代とのギャップや展示への違和感を覚えてしまった。エヴァンゲリヲンの世界も刀剣の世界も中途半端な展示表現に終始していたようで、残念ながら最後までコラボレーションの価値や魅力を見つけだすことが出来なかった。
　ただ、この展覧会で感じた物足りなさは私の長年に及ぶ従来型鑑賞経験によるものかもしれない。ひょっとしたら、10代や20代の方々には刺激的で、創造性豊かな空間であり展示物との対話が無限に拡がる世界があるのであろうか。つまり、来場者それぞれが持ち合わせている価値観で見学し、感じる事があればそれで十分である。むしろすでに視点の定まってしまった柔軟性の無い自分自身に気づかされた場であったのかもしれない。

館内案内所 　しかし、以前に『トイ・ストーリー』から『カーズ』までの作品が展示された『ピクサー展』(2006年・兵庫県立美術館)でコンピューター・アニメの奥深くて面白い世界観や視覚芸術の素晴らしい側面を知って感激したことがある。2010年夏には『水木しげる・妖怪図鑑展』で、風情のある日本独特の妖怪文化の魅力を知った。2011年夏には「スタジオジブリ」制作のアニメ『借りぐらしのアリエッティ展』で展開された創造力や芸術性を通して、映画の世界観や価値を再認識させられた。それらはどれも筋の通った魅力溢れる展覧会であった。一方、刀剣類でも過去に「節刀」をはじめとする沢山の作品を目の前にしながら無言の緊張感や歩んだ悠久の歴史を読み取る機会もいただいた。それらの展覧会や作品には展示への意気込みや展示された作品自らが発散する多くの魅力があった。もし今回の展示作品から来場された青少年が何かを感じていただけたならば幸いである。
　この夏も様々なミュージアムで沢山の若年層向けの特別企画が開催されている。もし機会があるなら感受性豊かなあなたのお子様やお孫さん達に是非心に残る楽しい、面白い作品との出会いの場作りをしてあげてほしい。もちろんこの酷暑続きの日々にあって、あなたご自身のお体を充分にご自愛されてからの話である。

＜夏休み特別展チラシの一部＞