今までのミュージアム関連の鑑賞歴、接触人脈そして現在のミュージアム支援機会を生かして、様々な視点によるミュージアムの魅力等をご紹介しながら、アクティブシニアの皆様のゆとり生活設計支援ができれば幸いです。
木村 文男
ミュージアムぐるっとパス
関西実行委員会 事務局次長
兼 株式会社廣済堂 常勤顧問
E-mail : m-grupass-kimura@kosaido.co.jp
そびえる美の世界展の広報版
早春の寧楽はまだ寒い。奈良公園にはまだ冷たいつむじ風が舞い、歩道はひっそりとしてさみしい。時々差し込む薄日の中に美術館の建物が見える。私が初めてこの「奈良県立美術館」を訪れたのは、たしか1982年真夏の『メアリー・カサット展-愛に生きた印象派の画家』だったと思う。当時まだ33〜4歳の頃で仕事に追われ、2人の子育ての最中にあった家内の立場も理解せず、寝ても覚めてもただ仕事がすべての日々。そんな時に出会った「母親と子供の溢れんばかりの愛情に満ちた表現」がいっぱいのアメリカ出身の女流印象主義作家の作品群だった。もちろん作品の素晴らしさもあったが、作品と対峙した時にいきなり突き刺さったのは、家族への愛情を置きざりにしながら仕事人間を突っ走っていた自身への警鐘だった。夕闇せまる駅への坂道を片手で子供を抱きながら、もう一人の子供の手を引いて歩く家内の後ろ姿に瞳が濡れたのを思い出す。早いものであの頃から30数年が経過しているが、その後も何回となく魅力的な展覧会があるたびに、私はこの美術館に足を運んでいる。
現在の展覧会のチラシ この奈良公園や興福寺に隣接した「奈良県立美術館」は1973年に開館。ちょうど昨年40周年を迎え、今始まったばかりの「開館40周年記念名品展『美の世界』」(〜2014.3.9)が最後の周年記念展にあたる。今回の展覧会は<近現代芸術の100年>と銘打ち、4,200点に及ぶ館蔵品の中から日本画・洋画・版画・彫刻・工芸・デザイン等の各分野の名品120点が一堂に展示されている。しかも、来館者には解りやすく (1)日本の伝統美を象徴する日本画 (2)西洋との出会いと受容を表現した洋画 (3)新たな創出を目指して活動した戦後昭和の作品群 (4)現代の多様化する美の様相を表現した、奈良ゆかりの作家による作品群 (5)古来の技と美を受け継いだ工芸・デザインの名品等がたっぷりと展示されていて飽きる所を知らない。
展示された優れた作品群は、日本画家であり風俗研究家であった「吉川観方」氏が収集されたのち寄贈された2,000点にも及ぶコレクションや「由良哲次」氏収集のコレクション、現代美術中心の「大橋嘉一」氏のコレクション、近代陶芸の巨匠「富本健吉」氏の作品等が中心となって収納されている。
今回の展示でいまさらながら感心させられたのは、ゆったりとした心地いい展示スペースの中で、それぞれの作品が見やすいように調整された照明によって、心ゆくまで落ち着いて鑑賞に浸りきることが出来る配慮がなされている。展示作品との距離や解き放たれた展示用の柵、直接眼に触れることのできる作品で感じる生々しい筆致や表現に感じる作家の心の動きなどが心に伝わり、じつにありがたい絶好の鑑賞の機会である。
美術館正面玄関
過去の展覧会PR用ポスター
今回展示のデザイン部門には地元・奈良出身の田中一光氏の作品が並べられており、その中の一点がちょうど1988年に制作の私がお手伝いをしたポスター作品であり、東京青山の田中一光デザイン事務所を訪ねた時の思い出やそのポスターが展示されたイベント(1988年なら・シルクロード博覧会)会場に1年間通い詰めた懐かしい思い出が蘇り、一人立ちつくしながら一層魅力的な楽しいひと時をいただいた。
素晴らしい作品群にたっぷりと酔いしれたあと、出口付近では40年の長きにわたり繰り広げられてきた様々な展覧会をPRしてきた広報用のポスターが綺麗に並べられたり、現在各地で開催されている他の博物館、美術館などのポスターも所狭しと展示されていた。しかもこの美術館の次回の展覧会の紹介がパネルや年表などで懇切丁寧に展示紹介されていて、地味ではあるが館全体での来場者目線での配慮が彼処に見うけられ、まだ春浅き大和路ではあったものの暖かな気持ちを抱きかかえながら「奈良県立美術館」を後にした。