コラム「今宵のごちそう」は、シニアの皆様(だけでもないと思いますが)におけるごちそうの意味をちょっと考えるきっかけになればいいなと思って進めてまいります。美味しく、ちょっとだけためになるかもしれません。
高原 純一
食のぐるり株式会社 代表取締役
E-mail : takahara@shokuguru.com
先日、仕事で実家のある岡山に帰った。「おかえり、元気にしとるか?この前送ってくれた野菜うまかったでえ。あんなに美味しいんは喰うたことがねえ。全部食べたけえ、また送ってくれえ。」と、僕を見るなり玄関で開口一番。よっぽど美味かったんだろう。あんな親父ははじめてだ。
岡山は農業県で野菜は豊富、家の近所のスーパーや八百屋でも露地物が手に入る。でも、いつも僕が食べている野菜の方が美味いと感じていたので、試しに送ってみた。あまりの反応に正直ほんとうに驚いた。やはり、昔の人の方が野菜の本当の美味しさを解るんだなあとしみじみ感じた。僕は仕事柄、本当に美味しい野菜を人生をかけて作っている人たちを知っている。でもそんな農家はほんの一握り。大半はスーパー向け規格品か、よくて有機生産。消費者の顔を思い浮かべながら「美味しい野菜を作りますけん!」と頭の中でブツブツ念仏のように唱える農家はほんとに少ない。
だから、僕は親父の笑顔を切り取って、野菜を作ってくれた農家さんに差し上げたかったなあと思った。
「特にだいこんがうもうてなあ、口中にあまみがふわあっとひろがるんじゃ。」親父の美味しそうな顔を見ながらのごはんが、僕には一番のごちそうだ。