コラム「今宵のごちそう」は、シニアの皆様(だけでもないと思いますが)におけるごちそうの意味をちょっと考えるきっかけになればいいなと思って進めてまいります。美味しく、ちょっとだけためになるかもしれません。
高原 純一
食のぐるり株式会社 代表取締役
E-mail : takahara@shokuguru.com
僕には漁師の友人が何人かいる。
最近は会ってないが徳島橘の池添さんは特に面白い漁師の友人だ。
ある日、突然電話が池添さんからかかってきた。「日本中の漁師が集まるけん、来んか?集合場所は通天閣の下、時間は来週木曜午後2時や。」と言ったきりプツリ。通天閣??と思いつつも、何か面白そうなので品川から大阪へと出かけてみることにした。
そこは大阪、懐かしい昔住んでいた町。地下鉄に乗り換えて通天閣へと。いますいます、腕ぷしのよさそうな日に焼けた漁師然とした輩が。その中でもひと際やんちゃな池添さんを見つける。集合完了、池添さんをリーダーに夜の町ならぬ昼の町へ黒光りのする集団がそぞろ歩き。立ち飲みのハシゴが始まる。見る見るどの顔も赤みを帯びてニコニコしてくる。
その池添さんも、船に乗ると顔が変わる。キリリとしまった漁師の顔に。漁師仲間では名前を知らない人がいないほどの腕前を持つ池添さん。彼の漁はそのほとんどがハモ漁だ。他の漁師が坊主の時でもなぜか彼にはハモの住む処がわかるらしい。不思議な人だ。
僕はそのハモが大好きだ。魚の中でも特に好きなのがハモだ。
東京ではめったに鮮度のよいハモが食べられないのが悲しい。行きつけの居酒屋がたまに築地から電話をくれる「今日はいいハモが入ったよ、食べにこない?」もう小躍りして出かける。
そのハモ、関西では祇園祭や天神祭の頃に湯引きを梅肉でいただくのが常。さっぱりとして目にもきれいな紅白が祭りをさらに彩ってくれる。
しかし先ほどの池添さん曰く「夏の方が高うてワシらはうれしいけんど、秋ハモの方がほんまはうまい。それに湯引きなんかっちゅうのんはワシらはあんまり食わん。一番うまいんは鍋かみそ汁や。ハモは甘いんよ、特に骨んとこが。そこをしっかり楽しまんともったいない。」
ハモ鍋・ハモのみそ汁。どちらも出汁はハモの骨と玉ねぎ(できれば淡路産の甘い玉ねぎ)。淡口醤油とみりんでお好みの味に。みそはあわせがよさそう。ハモの骨の出汁にはいつも驚きが。とにかく甘い旨い。それをさらに玉ねぎが補強してくれる。最強の出汁だ。
そこへ、骨切りし4センチほどずつに切ったハモを投入。鍋に入れた途端にフワ~っとハモの華が咲く。これが見事。そして今度は口へ放り込む。はふはふ。何とも言えない甘みと旨み、それにふんわりした食感。目で美味しく舌で美味しい。
さあ、これから夏そして秋とハモの楽しく美味しい季節の到来。骨切りは魚屋さんにお願いして、骨は必ずつけてもらう。楽しくて美味しいハモ鍋やみそ汁をぜひご家庭でもご賞味を。しかし、東京はハモを見つけるのに一苦労。関西がうらやましいことこの上ない。