お客様に料理を提供する者として、食材の背景を知っておくことは当然のこと。“自分の中の100点”を目指して、当たり前のことを当たり前のようにやる、ただそれだけ ──。料理人として進化を続ける中村重男さんにそのルーツと料理に対する想いを伺った。
information公設市場で下駄屋を営んでいたお父さんの影響で、小さな頃から新鮮な食材やできたての料理を身近に見て育ったという中村さん。「卵屋のおばちゃんにできたての卵焼きをもらったとき、料理ってシンプルでもこんなに美味しいんやって思ったことを今でもよく覚えています。食べもんの仕事ってええなぁと。あの頃の経験が食に興味を持つきっかけでした」。中学卒業後すぐに飲食の世界に飛び込み、さまざまな業態のお店で修行を積んでいた頃、中村さんの料理人魂に火をつける出来事があった。「20年くらい前、東京の料理通の友人に大阪の旨いものは粉ものしかないでしょってバカにされたことがあったんです。そのことが悔しくて、大阪の食の底上げをしないといけない、大阪にもどこにも負けへん料理があるんやということを証明したいと思ったんです。それから僕の食材探しが始まりました」。最高のひと皿を作るために全国各地の産地に足を運び、自分が納得のいく食材を探し求める日々。現在では、約100軒もの農家とやりとりをするまでになった。「畑で野菜を食べて、どんな調理法にするかほかの食材とどう合わせるかをイメージするんです。種類や旬によってどこの農家からどの野菜を仕入れるかが変わってきますから、取引きする農家も徐々に増えていきました」。中村さんが作る料理をいただくと、作り手が見える料理を食べることがこの上なく贅沢で幸せなことなのだと改めて気付かされる。「僕は当たり前のことを当たり前のようにやっているだけ。お店に足を運んでくださるお客様にどうやったら喜んでもらえるかを考え続けて辿り着いたのが今の『居酒屋 ながほり』なんです。自分の中の100点の料理を追い求めることはもちろんですが、僕が今まで培ってきた知識や技術、受けてきたご恩を若い料理人に伝え、繋げていくことも僕の役割です。こんなに美味しいものがある、頑張っている農家があることをきちんと伝えたい。良いものを自分の代だけで終わらせたくないんです。料理を通して後世に〝ご恩送り〟をしていくことが僕の人生のミッションだと思っています」。料理の世界に入って約40年、中村さんの追求と進化はこれからも続いていく。