ビジュアルアーツ専門学校・大阪 学校長  百々俊二
百々俊二(どど しゅんじ)/1947年 大阪府生まれ/1996年 「楽土紀伊半島」で日本写真協会年度賞/1999年 「千年楽土」で第24回伊奈信男賞/2007年 日本写真芸術学会芸術賞/2011年 「大阪」で第23回写真の会賞/2011年 「大阪」で第27回東川賞/日本写真家協会会員、日本写真芸術学会理事を務める
百々俊二インタビュー
 百々氏の最新写真集「遥かなる地平 1968-1977」。この作品には、百々氏が写真家を志したスタート時点から10年間撮り貯めた写真を集めている。

「ファッションでもなく、広告でもない、今の現実、身の回りにある事物をしっかりと見届けるための武器、方法としてカメラを持ちたかった。この時代は、世界的に反体制の動きが噴出した重要なエポック。必然的にそうした運動に目が向きました」。

原子力空母エンタープライズの寄港に対する阻止闘争に始まり、東大安田講堂への機動隊突入前後の様子など、一見、社会的メッセージが色濃い作品のように思える。しかし、大阪新世界の風景や、ご自身の結婚、新婚旅行、長男の誕生など、一個人の生活が垣間見える写真も多い。

「大きな時代のうねりの中で生きながら、私個人がどう時代に触れ、感じていたか。身の回りのことを写真で切り取り、それを通して自分自身の“生”を掘り下げる。私小説ならぬ“私写真”こそ、写真で表現するということです」。

逆もまた然り。自分の目を通して切り取った写真を見つめ直すことで、その時の自分の視点やポジションを確認できる。



現在は日本海をテーマにした写真集を数年がかりで制作中とのこと
アクティブシニアにとっては、自分を振り返るためのツールとしてもカメラの意義は大きい。「遥かなる地平 1968-1977」も、当時の時代背景を通して百々氏の若かりし日の思いを写し、また逆に百々氏の視点が捉えた当時の事実と空気感が凝縮された作品だ。

「ただし、単に身の回りを写すだけではなく、表現意識を持つことが大切。小説家が作品のテーマを考えるように、映画監督がシナリオを構想するように、何を表現したいのかを常に考えてください。その舞台として、何も特別な場所を選ぶ必要はありません。中高年だとよく神社仏閣や山岳の風景を撮ることに終止してしまうことが多いですが、どうして身の回りのことを撮らないのか、と疑問に思います。わざわざ遠くの有名な祭りを撮らなくても、地元の祭りを作り上げる過程を写しても面白い。一歳ぐらいの孫の、風呂上がりのツルツルした肌感に迫っても良い。そんな写真はその時の、その人にしか撮れない。かけがえのない機会の中で、被写体のかけがえのない魅力を見つけてあげてほしい。そこには多様な世界が生まれるはずですし、それが面白いんです」。

年齢を重ねれば、事物も視点も変化する。百々氏自身も、世界と衝突するような勢いで撮っていた10代と、じっくり見て、良しと判断してシャッターを切る現在の撮り方との違いを感じているそう。

「若い人が見ない、見れない視点で、60代ならではの深みと味わいのある写真が撮れるはず。さらにカラーにするか、モノクロにするか。ピントを浅くするか、深くするか。表現は幾通りも組み合わせがあるし、そのプロセスも楽しんでください。そうして撮り貯めた作品を、今は比較的安価に写真集として製本できます。形にすることも、写真を撮るモチベーションの1つ。そんな十人十色の世界観が見える写真集が書店に並んで、専門のコーナーができてもいい。既存の展覧会やコンペにこだわらず、色んな手法で世に出せば良いんです」。

手法にはこだわらず、ただ“表現意識”を軸にした独自の視点を大切にする百々氏のスタンスが、アクティブシニアにふさわしいアクティビティを指し示してくれそうだ。



45年の歳月を経て解放された奮闘の記憶
「遥かなる地平 1968-1977」

アートディレクション:鈴木一誌
翻訳:北川晋司
発行元:赤々舎 定価 7,350円(税込)
1968年から1977年という激動の時代を駆け抜け、それらを克明に、そして生々しく撮影。学生運動。沖縄。米軍基地。炭坑。韓国。妻、息子。26の断章で描く若き写真家の奮闘の記録。
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