少し前まで奈良観光と言えば、奈良公園の鹿に東大寺の大仏さんなど誰もが知る名所めぐりが主流だった。しかし今、注目を集めているのはゆったりとした風景中に古民家を改装した飲食店や雑貨店が点在するならまち。ここ数年で新店が登場し、さらに人が人を呼ぶ元気な町となっている。そこで土台をしっかりと支えているのは、古き良き日本の生活風景を守る老舗店。そのひとつ「酒問屋 小川又兵衛商店」の店主にお話を伺った。
「元興寺を中心としたならまちはとても歴史の古い町で、今でも老舗店をはじめ、たくさんの人々が奈良の文化を守り続けています。ありがたいことに、そんな町の雰囲気を気に入って移転してこられる有名店なども多く、最近では、フレンチやイタリアン、カフェや雑貨店などさまざまなジャンルの店舗が集まりました。しかし、そこで何か特別なことをするのではなく、個々の店がきちんと丁寧に商売をすることが町づくりには大切だと思っています。当然、町には人が住み、生活をするわけですから、そこに必要とされる店にならないといけません。例えば店の前を毎日掃除をする、近所の人と挨拶を交わす、そんな基本的なことが町づくりの根幹じゃないかと。ならまちが目指すのは生活感のないモデルタウンのようなものではなく、生活する人の温もりあふれる町なんです」。
そう話す小川さんの家族が営む「酒問屋 小川又兵衛商店」。奈良の銘酒をはじめ、ビールやワイン、さらにはみりんや醤油等の調味料の販売で地元の人々の生活を支えている。
「明治初期の創業当時は清酒とみりんを中心に販売していましたが、明治末頃からキリンビールや赤玉ポートワインなどの需要が増加し、取扱いを始めました。現在でも幅広いラインナップでお客様のご要望にお応えできるようにしています。奈良は清酒発祥の地なので、奈良の銘酒を求められる方もいるのですが、大切な人に送りたい、日常で嗜みたいなどそれぞれのシーンに合うお酒があり、お酒にだってそれぞれのストーリーがある。ただ、銘酒だからといっておすすめするのはどうも性に合わないので、できる限りお客様とその先にいらっしゃる相手の方にピッタリのストーリーを持つお酒を提案させていただいています」。
そうは言っても酒に詳しくないお客には単純に「美味しいお酒は?」と尋ねられることもあるのだそう。そこで小川さんは試飲販売を行う「ちょこっとカフェ」を店の前にオープンさせた。
「味に関しては私がどれだけ美味しいと絶賛しても最終的には好みの問題ですから、実際に試飲していただくのが1番です。また中には、新社会人時代に飲んでいた安価なウィスキーや親が好んでいたビールを飲みたいという方もいるので、軒先のベンチで懐かしいお酒を楽しんでいだだけたらという想いもあります。幸い、目の前は世界遺産の元興寺。私自身、ここではお酒ではなく”時間と空間を提供している“という感覚ですね」。
店では8年前から創業以来の手印を使用したお店限定の酒「純米吟醸英春」を販売。しかし小川さんは看板商品としてうたわず、あくまでもお客と対話し、その人にあった酒を提案したいと言う。そんな小川さんのような人情味あふれた人たちが多いならまちは、初めて訪れてもやさしく包み込んでくれるような居心地の良い場所。せっかくなら型にはまった観光ではなく、興味のままに町をめぐって、温かい人やものに触れてみてはいかがだろうか。
奈良の銘酒をはじめ、灘の銘酒、ワイン、ビールなど幅広く取揃える老舗酒屋。店先で休憩しながら1杯いただける「ちょこっとカフェ」が人気で、ならまち散策の途中で立寄る観光客も多い。また、店内には取引先のビールやみりんのレトロな看板が随所に飾られ、懐かしい時代にタイムスリップしたような気持ちに。
TEL:0742-27-6611/奈良市鵲町8/15:00~19:00(土日祝は10:00~)/無休
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