今までのミュージアム関連の鑑賞歴、接触人脈そして現在のミュージアム支援機会を生かして、様々な視点によるミュージアムの魅力等をご紹介しながら、アクティブシニアの皆様のゆとり生活設計支援ができれば幸いです。
木村 文男
ミュージアムぐるっとパス
関西実行委員会 事務局次長
兼 株式会社廣済堂 常勤顧問
E-mail : m-grupass-kimura@kosaido.co.jp
美術館正面外観 久しぶりに淀屋橋を歩いた。切磋琢磨しながら走り回った、あの頃の平日の都会の修羅場の思いがよみがえる。週末のビジネス街はテンポがおだやかでなんとも言えない力の抜けた場所になる。それがこの付近のゆったりとした土曜のたたずまいである。橋を渡れば目の前に中之島公会堂の赤いレンガがのぞく。緑豊かなこの中之島の地こそ都会のオアシスにふさわしい。この季節の木々の新緑がたっぷりと眼にしみる。すぐそばを流れる土佐堀川からのそよ風が心地いい。そんな緑に囲まれて都会型の美術館としては絶好の環境下に「大阪市立東洋陶磁美術館」はある。
こじんまりとした静かな雰囲気の上品な美術館である。今、「マイセン磁器の300年」展が開催(〜2012.7.22)されている。ドイツ東北部にある「国立マイセン磁器美術館」所蔵の作品が1700年代初頭の西洋磁器の創成期の頃の作品から、宮廷文化に育まれたり台頭する市民に支えられながら、様々な時代の変遷とともに洗練されて今日におよんだ作品まで幅広く展示されている。そこには現代の生活にも愛用されているマイセン磁器への親近感や作品への憧れなど、華麗なるマイセン磁器の美の世界への陶酔の時間が流れている。すぐ隣で作品に酔いしれた端正なご婦人方の感嘆の中での息づかいが聞こえた。
掲示板 当然、この美術館は東洋の優れた陶磁器が収蔵・展示されていて、安宅コレクションとして収集されてきた作品群を住友グループの寄贈により、関係者の尽力の末1982年に開館にこぎ着けた。本来の素晴らしい展示物は中国・朝鮮・日本等の陶磁であり、色彩的に派手さはさほどない。ただ今回のようにヨーロッパの華麗な磁器や昨年初開催された生活空間と器との出会いを再認識させてくれた陶芸家「ルーシー・リー」展の様な華やかな展示なども取り入れていて、その度に多くのご婦人達で賑わう。
それでも、常設展として展示されている高麗の青磁や白磁、元代・景徳鎮の青花磁器群、そして心和む唐代の婦女俑、壮大な宇宙を想わせる国宝・油滴天目茶碗などを観覧する時に伝わってくる、心から「ほっと」落ち着く時間がたまらなく嬉しい。この安宅コレクションでいつも感じるのは、多くの陶磁展示施設で観る茶道との連携一辺倒ではなく、また民芸運動などに影響されていない本来の陶磁器の美を真正面から見据え、目による美の鑑賞のみならず精神的に心を捉えて離さない空間が広がる。そこには美的な要素をたっぷり表現した作品に溢れる緊張感と小さな枠を取り払って大きな構想によって収集され、解放された作品群の気品がいっぱい漂っている。
都会のただ中にあって、簡単に鑑賞の機会が得られる美術館。そして鑑賞できる作品を通して得られる、心の緊張と解放のなかの充実した空間や時間。私たちの日常生活のなかで繰り返される無意識のながれではなく、新たに感じることのできるもう一つの驚き。そんなことをビジネス街の近くにある、爽やかな美術館の一つひとつの作品が無言で教えてくれている。