第十五回　次世代を担う少年に、夢を託しながら「大阪市立科学館」

大阪市立科学館外観　梅雨の合間に眩しい太陽がのぞいた。ビルの先端を見上げれば先ほどまで垂れこめていた雲が嘘のように青空に変った。周りでは子供達の飛び回るにぎやかな声がみなぎっている。楽しそうな子供達の屈託のない笑い声が、気持ちを一気に晴れやかにしてくれる。子供達のあどけない動きがたくさんの活力を引き寄せてくれる。ここ大阪・北区にある「大阪市立科学館」の正面広場を走り回る小学生の姿がまぶしい。傍にあるコンクリートの階段に腰を下ろしながら目を閉じ、聞こえてくる子供達の声に耳を傾けた。
　この科学館には私自身色々な思い出が詰まっている。一昨年、孫の孝介君を連れて見学に来たことがある。館内に入るなり目を輝かせ、いきなり走り出し、展示物の前でボタンを押しては真剣に何かを覗き始めた。どこで覚えたのか、この雰囲気の中にあるものは勝手に触りながら、楽しめるものだと反射的に理解していた。得意げになって振り向く姿に頼もしい「いたずら小僧」の明日を思った。今から20年程前には娘を連れて来たこともある、娘は恐る恐る展示物に触りながら私の手は握ったままであった。ボタンは押さず、むしろアインシュタインのレプリカに優しく触れながらにっこりとほほ笑んでいた。プラネタリウムの暗闇の中で飛び出す映像に驚き、突然泣き出し慌てて場外へ飛び出した思い出もある。それより以前、1989年の開館に至る２年間をこのミュージアムの完成に向けてお手伝いをしたことがある。当時所属の会社とその子会社とで展示設計施工と当初の印刷物やショップの商品企画のお手伝いをさせていただいた。まだ40歳前後の若い頃で、好奇心旺盛な中に大型施設の完成への歓びを噛みしめた思いが残る。当時、宇宙開発をめざして米国でコロンビアやディスカバリー等のオービタ―が打ち上げられた。その度に発売の記念メダルを米国から輸入、ショップ販売での好評完売を懐かしく思い出す。

展示会場（４階部分）　この科学館は宇宙やエネルギーを中心にした体験型の施設であり、見るだけでなく触り、遊び、楽しみながら科学に接することのできる価値ある施設である。小学生はもとより、我々大人でも沢山の学ぶ魅力に満ちた内容で驚かされる。特に子供達の生き生きとして遊び回る姿は科学を学習し、体験しながら理解や認識を深め、知識を広げてゆく次の世代の青少年の成長の場として、注目され利用され発展して行くことを願わずにはいられない。また、我々にとっても、刻々と変化して行く環境や文明を通じて、地球や人類の過去・現在・未来に思いを馳せる時を持つことの大切さを無言で語りかけているように思う。大空のむこうに広がる宇宙にロマンを求める姿勢は、明るく元気な子供たちよりも夢や希望を失いつつある大人にこそ、今求められているのかも知れない。

ギフトショップ　童心に戻りながら楽しい時間を過ごした施設を出ると、広場では先程まであばれまわっていた子供達が、一人の上手な女性芸人の技に見とれながら盛んに拍手を送っていた。私は成長して行く目の前の子供達へ、もう一つの夢を一生懸命に分け与えているそのストリート・パフォーマーの脇にあった小さな帽子の中に、「ありがとう」の言葉と手持ちのわずかな「謝礼」を入れながら、その「大阪市立科学館」をあとにした。

元気な孝介君（2F不思議な鏡にて）

目を惹くショウウィンドウ

アインシュタインのレプリカ

女性ストリート・パフォーマー