今までのミュージアム関連の鑑賞歴、接触人脈そして現在のミュージアム支援機会を生かして、様々な視点によるミュージアムの魅力等をご紹介しながら、アクティブシニアの皆様のゆとり生活設計支援ができれば幸いです。
木村 文男
ミュージアムぐるっとパス
関西実行委員会 事務局次長
兼 株式会社廣済堂 常勤顧問
E-mail : m-grupass-kimura@kosaido.co.jp
美術館と大渕池 水面をわたり行く晩秋の風が顔を撫でる。水に映る陽光も心なしか寂しげな11月の昼下がり。ここ奈良市の北西部・学園前の地に大きな池(大渕池)とはるかなる大空のもと、ゆったりとした自然に溶け込むように瀟洒(しょうしゃ)な「松伯美術館」がある。バス(近鉄学園前駅から約5分)を降りて大渕橋を渡るとすぐ横が正門玄関。目の前の白亜の美術館の建物に期待が膨らむ。そこには魅力的な日本画家「上村家三代」(松園・松篁・淳之)におよぶ作品や資料が展示紹介されている。この美術館と隣り合わせの旧佐伯邸(故佐伯近鉄会長宅)と四季それぞれに美しさを展開する百数十本ほどの松林を配した庭園(松林と佐伯氏の名前に「松伯美術館」の由来があると云う)がいい。そこにはゆっくりと流れゆく時を存分に堪能できる空間があり、もちあわせの感性が重なりあって至福の情感が湧きあがる。
今、松伯美術館では上村松篁没後10年の特別展を開催中(〜2011.11.27)。なにしろ見事な採光の明るい館内であり、高い天井と白い清潔な展示室の雰囲気が画伯の描き続けた優美で気品のある作品群を一層引き立て、素晴らしい特別展に仕立てている。特に画伯が生涯にわたって特別な思いを持って挑み続けた、鶴の作品群を一堂に展示。伝統的な画風を基に革新を付加しながら、対象物とじっくり向き合いその本質を捉えることを生涯の課題として研究し続けた力作が並ぶ。以前にカレンダーなどの仕事で画伯の作品を頻繁に借用・掲載させていただいたご縁もあり、ちょうど10年前の告別の際には当時の会社代表の立場で列席させていただいただけに、早10年の歳月はひとしおの思いがする。
美術館玄関の銘板 1994年開館以来「上村家三代」の素晴らしい作品群を所蔵し、企画展・特別展・収蔵作品展などを通してそれぞれの作品を展示公開、毎回沢山のフアンの心を酔わせ続けている。特に上村松園は女流作家の第一人者として、長い歴史と伝統を重んじながら独特の美感を持って格調高い女性像や気品ある市井の女性、中国の女性なども繰り返し描かれている。なかでも、この美術館で出会う大正後期の作品「楊貴妃」の見事な仕上がりが好きで、展示される度に他の地域での展示も含めてしばしば感動の時をいただいている。おそらく私が最初にその「楊貴妃」に出会ったのは1984年2月大阪高島屋で開催された「井上靖」展での溜息まじりの感動であったと記憶する。ついでながら同様の感動の時を何度もいただいた魅力的な日本画を挙げると、寺島紫明の「彼岸」(京都国立近代美術館蔵)と安田靭彦「飛鳥の春の額田王」(滋賀県立近代美術館蔵)がたまらなくいい。
当時開館にあたって上村淳之館長が「日本画の本質を索るヒントをみせる美術館」として位置付け、「ややもすれば失われゆく日本人の自然感を取り戻し、日本文化の原点に目をむける発信点となること」を願われた。あれから17年の歳月を経て美術館周辺の景観は豊かに育ち、馴染んだ風景や雰囲気が美術館に呼応しながら文化醸成に加担している。そしてこの「松伯美術館」から溢れでる魅力に包まれた至福のひと時に感謝しながら、その瀟洒(しょうしゃ)な美術館をあとにした。
※この「松伯美術館」からバスで10分ほど離れたところに「大和文華館」があります。
※12月6日(火)から収蔵作品展Ⅱ「野性の神秘を写す」が開催されます。