第四回　さわやかな初夏は、楽しい絵画で「大阪市立美術館」

　さわやかな風が顔をなでてゆく。都会の真っ只中をながれるそよ風が、素晴らしい何かを予感させながらこの季節が過ぎてゆく。そんな気持ちにさせてくれる近づく初夏のひと時。天王寺公園のバラが見頃だ。陽光きらめく中でよちよち歩きの男の子がひとり。傍らにいる母親の愛しいまなざしが素敵だ。ちっちゃなどこにでもある風景だが、大きな幸せがいっぱい詰まった親子充実の瞬間。すぐそばで「ロブ・ロイ」と言う名の深紅のバラが優しく見守るように風に揺らいで咲いている。

大阪市立美術館・正面玄関　大阪市立美術館では、幕末の奇才浮世絵師「歌川国芳」の没後150年を記念した展覧会が開かれている（～2011.6.5）。沢山のファンが連日詰めかけている。歌川国芳は役者絵・美人画・武者絵・風景画や実にユーモアに富んだ楽しい戯画など、自由奔放にして生真面目、大胆にして繊細、奇想天外なアイデアの中に個性的な作品を多々残している。特に迫力のある「宮本武蔵の鯨退治」や「朝比奈小人嶋遊」など大画面に描かれた創作力の妙に腕を組みながら「なるほど」の感慨。展示されている400点あまりの作品は熱心な浮世絵ファンのみならず、若い世代や海外の方々にも広く支持されている傑作選である。
　大阪市立美術館と言えば、かつてフェルメールの代表作を５点もそろえた「フェルメールとその時代」展で60万人ものファンを惹きつけた大変な実績を誇っている。初夏の頃にその館は二重三重の人垣に囲まれ、熱気溢れる会場では目を凝らしながら時を忘れたあの「青いターバンの少女」との鮮やかな対面は今でも忘れられない。いま、美術館への木漏れ日のさす小道には、当時を偲ぶ「フェルメールの小径」の表示が残っている。
　1936年開館の有数の歴史を持つその建物は威風堂々とそびえ建ち、正面玄関を入ると素晴らしいシャンデリアのホールに出会う。その床も壁も大理石で、まさに「芸術の殿堂」そのものを表現し続けている。足しげく通う展示会だが、本当の魅力は素晴らしい作品を交替で惜しみなく展示し続ける常設展示の作品群にあると思う。名作葛飾北斎の「潮干狩図」や上村松園の「晩秋」など、出会う機会があればゆっくりとたっぷりと堪能していただきたい。そのさりげなく目の前に迫る本物の絵画と、作者の意欲や心情をちらっと垣間見たような心地のなかで作家との距離が一気に近くなり、あなたはいつかきっと再会の機会を求めたくなる衝動に駆られることになる。

慶沢園から望む美術館 　裏側に回れば、かっては住友本家の本邸の庭だった日本庭園「慶沢園」があり、中央に大きな池を巡らせ、いっぱいの新緑に囲まれた回遊庭園からはすがすがしい都会のオアシスが顔を出す。昼下がり、爽やかな光を浴びながら池のむこうに美術館を眺めれば、充実した気持ちの中でしばし心は満たされることになる。もしあなたが悩み彷徨いながらその庭園にたどり着いたならば、あなたの心は静けさのなかでやがて優しく癒される時間に変化していくことだろう。