第十九回　フェルメール、あたらしい展覧会「感動支援空間」

「フェルメール 光の王国展」記念バッジ　神戸市立博物館でのフェルメール「真珠の耳飾りの少女」の展示が今月（2013年1月6日）終了した。これで一昨年から日本に入れ替わりながらやって来た７点の全作品が日本を離れたことになる。新聞や雑誌に度々取り上げられ、たくさんの出版物が書店を賑わせながら多くのフアンに素晴らしさを再認識させ続けた静かなブームも一段落である。それだけではなく、オランダへの旅行者が飛躍的に伸びましたと言って旅行代理店の女性までが笑顔でパンフレットを取り出して見せてくれた。日本人はやはりフェルメールが好きなのだと感心すると同時に日本人が受け入れやすい魅力的な作品であることを改めて理解させられた。
　ちょうど一昨年の夏頃に作業を開始し、昨年１月に東京・銀座で始まったフェルメール全37作品を350年前に描かれた当時の色調を求めて再創作（再現）した「リ・クリエイト」作品の展覧会『フェルメール 光の王国展』も好評にて２度におよぶ会期延長の末、昨年11月30日にようやく終了した。しかし、この展覧会は年明けのこの１月から北海道をはじめ日本全国で巡回展が開始される（1月20日現在、全国14カ所での巡回展が内定）。この展覧会、振り返るほどに面白く興味深い展覧会であった。
　この企画展は総合監修であり、開催された『フェルメールセンター銀座』の館長を兼ねておられた分子生物学者・福岡伸一氏の「フェルメール作品だけの美術館を開設したい」という純粋な思いから企画がスタートし、フェルメールの全37作品を原寸大で制作年代順に、しかも所蔵美術館とほぼ同じ額装にて展示。併せて、画家フェルメールをひもとく多数のパネル展示や彼のアトリエの再現等が解りやすく、楽しく配置されていた。この画期的な企画・制作・展示の実現に対して、開催直後の2月6日付け日経ＭＪの八塩圭子女史（フリーアナ・学習院大特別客員教授）の評価が面白い。･･･「フェルメール37作品のレプリカかと思うことなかれ。現実にはあり得ない誰も見たことがない光景には素直に感激する。作風の変化や構図の共通項などは一目瞭然。･･･視点の良さと編集の力、つまり＜キュレーション＞の力だなぁと感心した･･･」と。

モノクローム商品（メモ・ブック）　私も関係者の一人として、事あるごとに会場を訪ねた。そして、そこに展開されている作品や展示パネルを見ながら一人の鑑賞者としてその雰囲気に溶け込み、楽しんでいる自身を見つけては我にかえったことがあった。考えれば計算された照明管理、所蔵美術館とほぼ同じ額装、制作年代順の原寸大作品の展示。全作品に対しての名優（小林薫氏と宮沢りえ女史）が語り合う楽しい音声ガイド。音楽家・久石譲氏による60分におよぶオリジナル楽曲が柔らかに会場に流れる。好みの作品の前での撮影（フラッシュは不可）も自由。展示を監視する女性もいなければ、音声ガイド返却の煩わしいやり取りもない。絵画の一場面が大きく再現されたエリアでの記念撮影も楽しめる。階下には魅了された鑑賞の余韻を楽しむ珈琲ショップがある。仕事の疲れから解放され、夕刻ワイン片手のゆったりとした夜間鑑賞も可能である。観覧後には都会の洗練されたしつらえの中に展覧会の想いを求めるギフト・ショップにたどり着く。しかも様々な角度から検証・選択された、かなり質の高いフェルメール関連だけの記念の商品がぎっしりと並んでいる。
　往々にして名画との対面は混み合った会場を押されつつ整備員に誘導され、わずかな目玉作品を横目でのぞきながら通過して行く、あの騒ぎに終始することがある。一方、ゆったりとした展覧会場での作品との対話は静寂の中で監視員の存在を気にかけながら、よそよそしく緊張気味に歩む展示空間になることもある。今回の『フェルメール 光の王国展』に感激した多くの来館者の感想が会場内の大学ノートにぎっしりと書きこまれてあった。そのノートに書かれた素直な気持ちを読み取りながら、従来の展覧会のような単なる展示スペースを離れ、会場全体が醸し出す華やいだ雰囲気の中で、まさに来館者がゆったりと楽しめる空間が提供されていたことを再確認した。これはどう考えても、すでに総合的な文化力（娯楽・芸術）提供の空間であると思った。
　今、私の引き出しに手書きのメモがある。東京・銀座での『フェルメール 光の王国展』入場者は150,000人を越えている。大変人気のあったギフト・ショップの「フェルメールのポストカード」は138,000枚ほどが来場記念として購入され、感動や感激や楽しい思い出と共に持ち帰られたようである。

「フェルメール　光の王国展」関西・四国地区開催予定

2013年3月23日 ～ 6月2日

神戸市

6月26日 ～ 7月15日

大阪市

7月6日 ～ 9月1日

高知市

公式図録、オリジナルCD「フェルメール＆エッシャー」（久石譲作品）、
人気の出版物「フェルメール　光の王国」（福岡伸一著・木楽舎刊）

オリジナル額装の販売用フェルメール絵画小作品群

大人気のオリジナル・ポストカード（37種）