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歴史コラム

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第73回 日本庭園の変遷を巡る⑮(明治時代/無鄰菴)

日本庭園の新たな潮流

明治維新により幕を開けた明治時代は社会の仕組みが一変し、西洋文明が堰を切ったように流入してきた。文明開化の流れは庭園界にも押し寄せ、江戸時代を通してややマンネリ化した神仙蓬莱などの伝統的技法は敬遠され、それまで伝統を踏襲してきた日本庭園の世界にも新たな潮流が生まれる。
大名が姿を消し、新しい時代の指導者をはじめ新興地主や実業家が新たに庭園の施主として登場する。なかでも明治の庭園界に大きな影響を及ぼしたのは、長州(山口県)出身の山縣有朋である。明治の元老で、軍人にして政治家でもあった山縣は庭園をたいへん愛し、慈しんだ人物として特筆されるとともに庭園史上にその名をとどめた。
彼の庭園観では、豪壮・雄大な自然風の景観が最上とされ、石組や池泉などの意味付けは一切否定された。それまでの寺の庭や茶庭などが宗教的世界観や詫び寂びの世界といったものを表現するために作られ、作庭方法も伝統的な形式を踏むことがほとんどであったことに対し、山縣が望んだ庭は、そうした庭とは全く違った性格のものであった。
東京の椿山荘(ちんざんそう)、小田原の古希庵(こきあん)などの庭園を自らの構想のもとに造営したが、なかでも南禅寺の旧境内に位置する無鄰菴(京都市左京区)は、七代目小川治兵衛(1860~1933;屋号「植治」)に依頼して自らの構想を詳細に具現化したものである。

文明開化の日本庭園

日露開戦を決定した「無鄰菴会議」の場としても知られる無鄰菴は、山縣が明治27年(1894)から30年にかけて京都に造営した別邸である。
山縣は無鄰菴の作庭について、「この庭園の主山は東山であり、山麓にあるこの庭園では、滝も水も東山から出てきたようにデザインする必要があり、石の配置、樹木の配置も自ずと決まってくること」「水の扱いについては、山村を流れる川のイメージで、池ではなく流れの庭としたこと」「植栽については、滝の岩の間にシダを植え、ツツジを岩に付着するように植え、地被としては芝を用いるとともに、高木としてはモミを用いるとともに、杉、楓、葉桜を中心としたこと」を語っている。
敷地面積は約一千坪あり、形状は西を底辺に東がとがる細長い三角形。山縣は植治こと小川治兵衛に実際の庭造りを行わせながら、新しい借景式庭園を試みた。景観の要として、東方に位置する東山を借景として庭園に取り込むとともに先へ行くほど狭くなる敷地の形状をそのまま活かす空間構成で、遠近法を逆手に取って実際以上に奥行きを感じさせる。完成間もない琵琶湖疎水から豊富な水が引き込まれ、軽やかな流れの庭で明るいのどかな景観が造り出されて、ゆったりとした池泉回遊式庭園となっている。
庭園中央の池は琵琶湖を忠実に再現した形に作られ、実際の瀬田の唐橋や琵琶湖大橋とちょうど同じ場所に橋が架けられている。



母屋から眺める東山を借景とする景色

園路(作庭時は芝生だった)

水は浅いほど広く感じられることから庭に広がりを持たせるための視覚効果を狙い、池の深さは2~3cmと非常に浅く作られている。その水面に植栽や空が美しく映り込むことで、庭は無限の広がりを見せる。
母屋の床の間から眺めるとモミジやマツの枝ぶりの向こうに東山が見え、庭園の奥行きを感じる。庭園の奥にある三段の滝は醍醐寺三宝院を模したもので、三段の滝を三方に向けて組み、水の流れに変化を持たせ、空間と水量の多さを表現している。そこから二筋の浅瀬の川が芝生の中を静かに流れる。西洋庭園の影響を受けた、いわば文明開化の庭である。


山縣の庭園観を咀嚼し、新たな造景に力を尽くした植治こと七代目小川治兵衛は以降作庭において借景の技法を得意技とし、後世の造園界に大きな影響を残した。
東山の麓には多くの実業家らが別荘を営んでいたが、植治はその多くの造園を手がけ、更に平安神宮神苑、円山公園、野村家別邸(碧雲荘)などの名園を残した。
植治の作庭した庭園は、明治という新しい時代にマッチした明るい解放感を備える。
いずれの庭にも借景や水の流れ、軽やかな配石、広々とした芝生とそのなかを縫う曲線的な園路といった独自の作庭手法を見ることができる。



庭園奥に佇む三段の滝

水の上の飛石(沢飛石)


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